不思議な樹木2015/08/17 10:55

 昨日でお盆休みも終わり、今日から出勤という方が殆どだと思います。この休日の間に皆さんの中には山へ海へ、あるいは久しぶりの里帰りなどと慌ただしい毎日を過ごされた方も多いのではないでしょうか?

 私はこのお盆の間に先祖の供養と近場のドライブでも、と考えていたのですが、急遽呼び出しが掛かり、14日は熊本市内の小学校の樹木調査をやるはめになってしまいました。調査の目的は枝が枯れたり、幹が腐朽したりしていて、枝折れや倒木の危険のある樹木を拾いだすというものでした。確かに、連休中は学校への人の出入りも少ないので都合が良かったのでしょう?

 調査は簡単なものだったのですが、小学校の樹木を改めて見てみると、結構面白い発見があります。下の写真は、ケヤキの木にツルウメモドキが巻き付いている様子です。巻き付いている方のツルウメモドキがかなり多きく成長しているためにケヤキの成長が阻害され、やっとこさ生きているという感じです。まるで、アントニオ猪木の得意技コブラツイストを掛けられているように見えます。

ツルウメモドキとケヤキ

 次の写真は株元で枝分かれした一本の木のように見えるのですが、実はこれ全然別の木が根元付近で合体しているものです。向かって右側の細く曲がっているのがクスノキ左側の真っ直ぐなのがハリエンジュです。この二つは種が同じとかいうことも無く、全く無縁の樹木なのですが、御覧のように仲良くくっつきながら成長しています。
 
ハリエンジュとクスノキ

 三番目の写真はナナミノキです。幹の上の方をよく見ると、横方向に走った亀裂の中に自らの枝を飲み込んでいるのが分かります。まるで自分の腕に噛み付いているようにも見えます。上の樹木と違って、こちらは自分自身の事があまり気に食わないのでしょうか。

ナナミノキ

 
 最後の写真はサクラについたコフキサルノコシカケです。縦横ともに30㎝はあろうかという立派なキノコです。幹の内部は殆ど腐朽しているものと思われます。
 この日の調査でも問題が見つかった樹木の九割近くがサクラの木でした。それも植えられてから40年ほどは経っていると思われる木が殆どです。一般的にサクラ(ソメイヨシノ)の寿命は60年ほどと言われますが、ある意味当たっているのかもしれません。写真にあるようなサクラは植え替えの時期に来ている事は間違いなさそうです。

コフキサルノコシカケ

 14日の調査はほぼ1日がかりとなりました。お陰で、お盆休みにゆっくりと羽を伸ばすまでには至りませんでしたが、ご先祖様の供養も出来たし、美味しいものも頂けたし、それに、学校の樹木の現状もなんとなくではありますが分かったので、それなりに有意義な休日を過ごすことが出来と思います。

街路樹の診断2015/08/03 13:29

 梅雨が明けたとたんに、うだるような暑い日が続いていますが、この暑さの中福岡市で行われた街路樹の診断のお手伝いに行ってきました。
 場所は福岡市の大博通り、博多駅から港の方に伸びており、周辺はオフィスビルやホテルなどが建ち並ぶ福岡のメインストリートの一つです。
 今回の調査は歩道部に植栽されているケヤキが対象となります。熊本もそうですが、福岡でも街路樹として多く植えられており、尚かつ、これまでに倒木や枝の落下など樹木のまつわる事故の多くを引き起こしている要注意な樹木でもあります。

ケヤキ並木

 幹の部分を木槌で叩いても、空洞と思われるような音の変化は聞き取れなかったのですが、下の写真でも分かるように株元の部分にはベッコウタケの大きなキノコ(子実体)が発生しています。直径20センチ以上はあるでしょうか。

ベッコウタケ

 キノコを外してみると、着生していた部分の樹皮が白っぽく変色しているのが分かると思います。試しに先の尖った鉄の棒で突いてみると、その先端が幹の内部に食い込んでいきます。幹の部分はかなり腐朽が進行しているものと思われます。

ベッコウタケ除去

 そこで、どの程度腐朽が進行しているかを測定するために、音波の伝わり方の速度によって、腐朽部分を測る特殊な機械を用いました。
 まず、幹の周りに音の伝わる速度を測定する長方形をしたセンサーを12個程取り付けます。センサー直下の幹に金属製の釘状のものを軽く打ち込みます。このセンサーと釘とは線で結ばれています。釘の頭の部分を特殊なハンマーで叩く事によって発生する音が、どのように伝わるかを各々のセンサーで読み取る仕組みになっています。
 
ピカスセンサー取り付け

 測定結果は専用ソフトを介してパソコン上に画像として表されます。少し見にくいのですが、下の写真の青と紫の部分が腐朽した部分です。緑の部分は腐朽が疑われる部分、茶色は健全な材を表しています。測定の結果、空洞率は47%となり、今後、伐採を検討される値となりました。

 最初の写真では枝葉が茂り、健全に成長している樹木に見えるのですが、株元の方では予想外の腐朽が進んでいます。特にベッコウタケの場合、他のキノコと違って主に根株部分を腐朽させるので、一見健全に見えても樹木自体を支持する根が殆ど腐っており、少しの雨風でいきなり倒木という危険もある訳です。

 今回、使用した機械を上手く活用していけば、倒木などによる事故のリスクを減らす事が出来ると思います。しかし、この機械その特殊性からか非常に高価なもので、当然、診断料もかなり高くならざるを得ません。一路線の街路樹を全て機械による診断という訳にはいかないようです。基本的には我々樹木医が目視によってベッコウタケをいち早く発見し、その成長の度合いによって、このような精密診断を行うのか、伐採をするのかを判断できる技能を身につける事が大切なようです。

ピカス画像

 

秋の現地講座2015/07/14 08:54

 先日、Facebookでもご紹介した、NHKカルチャーの巨樹・古木を訪ねる現地講座の下見の続きです。

 Facebookでは城原八幡社まで紹介していましたが、秋の講座では長湯温泉にまで足をのばす予定にしています。その目的は長湯の町外れにある、籾山八幡社の巨木を訪ねるためです。長湯の温泉街から車で5分程度の場所にあります。途中、ダム湖の脇の道を抜けた先に集落があり、その集落を見下ろすような場所にあるのが、籾山八幡社です。日本書紀にその記述が見られる、景行天皇の土蜘蛛討伐の言い伝えを残す歴史のある神社です。

 まず最初に迎えてくれるのが、参道に植えられた杉の巨木です。幹周は5m以上、高さ30m以上は間違いなくあると思われる大杉が、狭い参道を挟んで植えられている姿は正に壮観です!

籾山八幡社 杉

 鳥居の遥か上の方まで枝を茂らせているので、参道はかなり薄暗く感じる程です。

 
 苔むした参道を中程まで進んでいくと、大ケヤキが姿を現します。
スギの直線的な樹形とは全く違って、大きく枝を横に張り出し幹が沢山のコブに覆われている姿は、薄暗い参道の中で怪しい程の存在感があります。

籾山八幡社 ケヤキ2

 近づいてみると、幹のウロになった箇所や枝の付根などから、榊やナンテンなど、沢山の樹木が着生しており、風格を感じさせる佇まいです。案内板によると幹周り9m程(コブの上)で九州第3位のケヤキの巨木とありますが、枝の屈曲やコブ、着生樹木の所為でしょうか、私の見た印象としては他の2本よりも重量感を感じます。

籾山八幡社 ケヤキ2

 階段を上りきった先の山門越しに振り返ると、違ったアングルからケヤキの姿を楽しむ事が出来ます。
 籾山八幡社は比較的小さな神社なのですが、ケヤキやスギの巨樹が作り出す独特の雰囲気が、ここを特別に神聖な場所にしているようです。
 講師として、今から皆さんをこの場所に案内するのが楽しみになって来ました。

籾山八幡社 ケヤキ3
 
 講座の開催は11月中旬頃、おそらく付近は紅葉の季節を迎えています。ケヤキやイチョウも色づいていて、今とはまた違った表情を見せてくれる事でしょう。
 多くの皆様のご参加をお待ちしております。

樹木にキノコ!2015/06/29 13:16

 とにかく雨続きの今年の梅雨にあって、昨日今日は貴重な梅雨の晴れ間となっています。九州南部では6月の降水量が平年の2倍以上にもなっているとか?人にとっては鬱陶しい日々ですが、このような湿度の高い状態を好む生き物もいます。
 そんな生き物の中のひとつがキノコなのです。元々、キノコは材質腐朽菌といって枯れた樹木を分解して速やかに土壌に返す重要な働きをしています。しかし、キノコの中には生きた樹木の根っこに寄生して樹木を枯らしてしまったり、倒木などを引き起こす毒性の強いものもいます。
 その、代表的なものが下の写真に見られる。ベッコウタケと呼ばれるキノコです。

公園のキンモクセイ

 上の写真は我が家の近所にある児童公園のキンモクセイです。遠くから見る分には「少し葉っぱの量が少ないかな?」と感じる程度でさほど気に留めるような事も無いのですが、近づいて根の当たりを見てみるとご覧の通りです。

キンモクセイ ベッコウタケ

 根元周辺に黄色がかったクリーム色のキノコがびっしりと張り付いています。キノコといってもシメジやシイタケの様に柄があって傘が開いているというものではありません。最初はコブ状の塊が現れ、成長するに従ってサルノコシカケの様な形へと変化していきます。11月頃になると、焦げ茶色に変色して活動は一旦収束しますが、次の年の6月頃から活発に活動を開始します。名前の由来はベッコウ色をしているからでしょうか?
 繰り返しになりますが、このキノコの特徴としては樹木の根を腐朽させるということです。ですので、毎年夏場に多く報告される樹木の倒木による事故の主な原因と考えられ、非常に危険なキノコでもあります。
 しかし、残念なことに、樹木を活かしたままキノコ(材質腐朽菌)だけを殺すことは不可能です。キノコとして我々が見ている部分は材質腐朽菌の生殖器官として胞子を飛ばす役割を果たしています。バラの木で例えれば花に当たる部分なのです。養分吸収器官である枝葉や茎、根に当たる部分は菌糸と呼ばれ、樹木の内部に広がり組織を分解しているのです。バラの花を一生懸命に摘み取っても生育自体にはさほど影響がないのと同様に、キノコ自体を取り除いて、そこに殺菌剤を塗ってもあまり意味のないことなのです。

ケヤキのベッコウタケ

 上の写真は2013年の7月に、このブログでも紹介した熊本市内某公園内のケヤキです。管理者には伐採を勧めたのですが、キノコを削って殺菌剤と強化剤の塗布の処置が施されただけでした。その後の様子が気になっていたのですが、先日久しぶりに前を通ってみたら、以前ベッコウタケが生えていた同じ場所に再度発生していました。

 近づいてみると10㎝〜5㎝程の大きさのキノコが根元に3箇所ほど見られました。これから、夏場にかけてさらに成長するものと思われます。

ケヤキ ベッコウタケ2

 補強のためでしょうか、杉丸太で支柱が設置されています。しかし、幹周が3m程度、樹高15m程もある大きな樹木を支えるには如何にも貧弱な気がします。キノコの成長を伺いながら、管理者の方には伐採を含め適切な処置をとるように働きかけたいと思っています。

ケヤキ

 これから10頃にかけてはベッコウタケが成長する時期になります。上の写真でも分かるように、枝葉はよく伸びて健全そうに見える樹木でも根元にベッコウタケが発生している場合が多くあります。特に公園や街路樹で見られるケースも多いので、特に注意が必要と言えます。もし、見かけたら公園や道路の管理者への報告をお願いいたします。

ケヤキ並木の倒木

 上の写真は、7年前に菊池郡大津町の国道で起きたケヤキの倒木事故の写真です。この原因も根元に発生したベッコウタケによるものでした。ひとつ間違えれば大事故になりかねなかった事例です。このような倒木事故が起きないように、今後は樹木の点検も重要な業務となっていくと思われます。
 

 

クスノキのその後2015/04/21 11:02

 昨年の秋に土壌改良作業の様子を紹介しましたクスノキ、その後の生育状況を確認に行ってきました。丁度、新葉が出たばかりで若葉色が目にまぶしく、今のところ順調に推移しているようです。

小川川尻クスノキ1
 
 土壌改良を行った際に、根系をある程度切断せざるを得なかったので、もっと枝枯れが出るかと思っていました。しかし、殆ど枯れも目立たたず、切断による樹木へのダメージも少なかったようです。

小川川尻クスノキ2

 新芽の展開から遅れて、5月以降は地下で根の成長がピークを迎える季節です。その際に根が改良した土壌から沢山の水分と酸素を吸収してくれて、樹木の活力が増す事を期待しています。

小川川尻クスノキ3

 この秋にもう一度、今度はオレンジネットの外側の土壌改良を行う予定ですので、その際には皆さんにご紹介したいと思っています。

川辺川のサクラ2015/04/01 17:25

 昨日、NHKカルチャーの『巨樹・古木めぐり』現地講座に出掛けてきました。午前中はなんとか持ってはくれたものの、午後からは雨のぱらつく中での講座となりました。それでも、午後に訪問した五木村宮園までは沿道のソメイヨシノや、山腹のヤマザクラが満開で受講者の皆さんも車窓からの景色にうっとり、日常とは異なる秘境の風景を堪能されていました。
 
人吉市内から1時間やっとの思いでたどり着いた『宮園のイチョウ』は、ほとんど葉は開いておらず冬枯れに近い状態でした。それでも、イチョウ独特の枝のつき方や気根と呼ばれる変形した幹の話をすると、皆さん熱心に聴かれており、毎回の事ではありますが、皆さんのおおらかさに助けられています。

 見学箇所の写真は『春の準備』というタイトルで、以前にこのブログで紹介したので、今日は講座2日前に下見に行った際の川辺川の写真を掲載します。

川辺川宮園

 上の写真は宮園のイチョウのすぐ横を流れる川辺川の風景です。さすが清流といわれるだけの事はあり、遠くからでも川の底にある石まで透けて見えます。



川辺川桜

 川べりの公園ではソメイヨシノがほぼ満開を迎えていました。


球磨川桜

 川辺川は下流まで下ってきて球磨川と合流し、人吉市内では緩やかな流れとなります。写真は昼食場所から対岸の人吉城祉を見ています。石垣の上のソメイヨシノは満開で花の下を散策する人の姿も見られ、長閑な風景です。

 次回の現地講座は11月の紅葉の時季に行う予定です。巨樹・古木を巡り、途中の風景も楽しめるような場所を探しますので、皆さんご期待下さい。

 
 

 

続・春の準備2015/01/09 10:15

 昨年末の記事で、春の現地講座での訪先を下見していると書いたのですが、今回はその続きです。前回の八代市から九州自動車道を南下して人吉市内へ、ここで最初の見学地として考えているのが、下の青井阿蘇神社の御神木であるクスノキです。熊本の方ならご存知かと思いますが、この神社は5年程前に、本殿や楼門を含む建物群が国宝に指定された由緒ある神社です。鳥居の奥に見える茅葺き屋根の山門もコンパクトではありますが、歴史の古さを感じさせるものがあります。

青井阿蘇神社

 ここで見学予定は山門をくぐり本殿右側奥にある御神木のクスノキです。ここは6本程前にこの現地講座でも訪れました。その際には気がつかなかったのですが、6年経って見てみると、枝の先端部からの枯れも少し目立ち、衰弱しているように見えます。国宝への指定をきっかけに参拝者も増えて、クスノキ周辺の土壌も踏み固められたという事でしょうか?

青井阿蘇神社の御神木

 次は球磨川の支流の万江川を20分程遡ったところにある淡島神社のイチイガシです。神社の鳥居がある県道沿いには駐車場とトイレがあり、そこからの眺めが下の写真です。渓流沿いの山奥に入ったという雰囲気を漂わせています。

万江川

 神社は安産祈願の神様として地域では有名らしく、境内にあるすごく小さな鳥居を無事にくぐれると安産となる。という言い伝えがあるそうです。

 そんな境内の左手奥にイチイガシがあります。カシの仲間で最も大きく成長して、薪や炭にした時にも強い火力がある事から、一位の座にあるという事が転じてイチイガシという名が付いたそうです。九州では神社の境内に良く植えられる樹木でもあります。
 
 このイチイガシ、写真でも分かるように幹の内部は大きな空洞が開いているのですが、周辺環境が良いからでしょうか樹勢は至って健全です。

淡島神社のイチイガシ

 続いては、やはり球磨川の最大の支流である川辺川を人吉市内から50分程遡ったところにある宮園の大イチョウです。案内板によると樹齢500年、幹周り8.3m、高さ45mとあります。私がこのイチョウを見て一番驚いたのは、その高さです。幹周りではこれより大きいものをいくつも見てきたのですが、高さではこれまで見た中でこのイチョウが一番ではないかと思います。その高さを表現するために枝先まで映るような写真を撮りたかったのですが、私のスマホのカメラには納まりきれない程のスケールがあります。熊本県の天然記念物に指定されています。

宮園のイチョウ

 最後の写真はイチョウの横にあるイチイガシです。幹周りの大きさもさることながら、こちらもとても背の高い樹木です。

宮園のイチイガシ

 次回講座での見学予定樹木は前回の2カ所を含めて全部で5カ所です。講座の実施は4月上旬のサクラの季節を予定していますので、最後に人吉城内のサクラを皆さんとご一緒にめでて帰ろうかと思っています。

 あとは当日天気に恵まれる事と、イチョウの葉が出てくれるのが、サクラの開花時期より前である事を願うのみです。(アーメン)

春の準備2014/12/27 08:41

 今年も今日を含めてあと5日ばかりとなりました。皆さんの中には年末年始の休暇に入ってらしゃる方も多いかと思います。当社も通常の営業は今日までですが、一部現場の作業が残っており、週明け月曜までは仕事をしなければならなくなりました。

 そんな中、県南の八代方面まで樹木を見に行ってきました。来年の春のNHKカルチャー現地講座の訪問先を探すためです。講座自体は3月下旬から4月の上旬なのですが、広告の締め切りが年明けということで、「早めに見学地を決めておく必要があります。」と担当さんから催促されています。
 これまでに県内の主な巨樹・古木は見ており、最近は福岡や佐賀、宮崎など県外中心だったのですが、県南の八代方面へはまだ訪れていないことに気づき、思い立ったが吉日ということで早速出かけて来ました。

 最初に目をつけたのが、八代市の手前の小川町にあるクスの巨木です。

小川阿蘇神社のクスノキ

 商店街の中に小川阿蘇神社という古いお宮があり、その境内の階段の途中に生えています。根元付近で二股に分かれており、大きく枝を伸ばし樹高は30m以上もあるとのことです。この木1本で上空から境内を覆い尽くすような大きさです。

小川阿蘇神社のクスノキ2

 次に向かったのは八代市内を流れる球磨川の河口付近にあるという「アコウ」の木です。アコウと言っても聞き慣れない方も多いかと思いますが、イチジクの仲間の常緑樹で、主に本州南部や九州や四国、沖縄の海岸線に自生する樹木です。種子が他の樹木の上で発芽し、着生して、やがては元の樹木を覆い尽くして枯らしてしまう事もあります。そのような事から別名「絞め殺しの木」とも呼ばれています。

大鼠山のアコウ

 上の写真でも分かるように、幹の途中からは沢山の気根を伸ばしています。これがやがて他の樹木に絡み付いて、自らの中に取り込んでしまうという事なんですね。
これは薄暗い熱帯や亜熱帯のジャングルで、いち早く日光を獲得し、成長を遂げるという生きるための機能でもあるのです。見た目はおどろおどろしい印象を受けるのですが、生存競争の激しい熱帯の森で生き抜く為に、自らの体を進化させた結果なのです。これはこれで見応えがあります。

 このアコウの木のすぐ下は、球磨川が不知火海に注ぐ河口となっています。中州に小島が見えますが、その向こう岸には万葉集にも歌われた小さな無人島、水島があります。言われてみれば、歌になりそうなのどかで美しい眺めです。
 この木も何十年いやそれ以上の長い歳月、この場所でこの夕日を見てきたことでしょう?

球磨川の河口付近

 この日は樹木の候補地を4箇所ほど訪ねたのですが、この2箇所は是非、春の講座で訪れたいと思います。この続編は球磨川をさかのぼって人吉方面へ向かう予定です。次回の記事は来年になると思いますが、乞うご期待下さい!

 今年はブログの更新が満足に出来ず、皆様への情報発信を十分に出来ませんでした。しかし、来年は緑の情報を数多くお伝えできるように頑張りたいと思っております。皆様にとって来年が良い1年となりますように。それではまた来年。

 


クスノキ土壌改良2014/11/27 08:25

 今年7月の記事でも紹介しました衰弱したクスノキ、調査を行い、管理者である市に報告を行ったところ、樹勢を回復するための処置を行う事になりました。
 下の写真は夏に撮ったものですが、葉っぱもボリュームも少なく、枝の先端が衰弱して枯れているのが分かります。

クスノキ現況

 以前行った調査で土壌環境が悪くなったために、衰弱しているという報告はしましたが、今回の処置では硬くなった周辺の土壌を柔らかくして、深植え状態による酸素不足を解消する事を目標としました。

 そこで、まず行ったのが根の周囲の硬く固まった土を取り除く作業です。ショベルで一気に土を掘ってしまうと根を痛める恐れがあるので、エアースコップという特殊な機械を用い、根の周辺の土を圧搾空気で吹き飛ばしながら掘り進めていきます。

エアースコップ

 この作業は端から見ているより結構大変です。吹き飛ばされた土や小さい石ころが自分の方にも跳ね返ってきます。

 深さ80センチ程まで掘って、通気を良くするための資材を敷設します。白い筒の中は軽石状の改良材が入っています。これを垂直方向と横方向に何本も設置していきます。

酸素管設置

 次は土の埋め戻しです。元からあった土は殆どが山砂で、そのまま埋め戻しても元の様に固まってしまいます。そこで、付近の山から肥沃な黒土を搬入し、これに有機質と木炭を砕いた無機質の改良材を混ぜて埋め戻していきます。

 この作業においても、せっかく立てて固定した改良材の筒が倒れないように支えておくのに一苦労しました。


埋め戻し

 最後は、活力剤を混ぜた水をたっぷりと潅水して作業の終了です。このとき、使った水は全部で8000ℓあまり、このように大量の水で潅水する事によって、土とクスノキの根との間の隙間がなくなるように土を流し込みます。

 因みに、土壌の表面に見える黒くて丸い小さなものは、敷設した筒が土に埋もれてしまわないようにするためのプラスティック製の蓋です。

完了

 今回、改良を行ったのは直径10m程のコンクリート製のサークルベンチの中のみです。来春の様子を見ながらではありますが、今後はベンチの外側の非常に硬い山砂舗装の部分の改良を検討する必要がありそうです。

 来年の春の新緑の時期に沢山の葉が元気よく展開してくれる事を期待します。

巨樹・古木現地講座2014/11/15 08:51

 先日の13日(木曜日)に、このブログでも事前に紹介していました現地講座に言ってきました。前日からの天気も回復して受講者の皆さんも雨に濡れるような事はなかったのですが、冬型の気圧配置がもたらす北風の寒い一日となりました。しかし、そこは出かけ慣れた皆さんの事、この日の天候に合わせて防寒対策バッチリで、元気よく見学をされています。
 
 下の写真は最初の見学地、遠賀川流域の福岡県遠賀郡水巻町にある八劔神社の大銀杏です。10月下旬に下見に来た時よりもかなり黄葉が進んでおり、上の方の枝では葉が落ちているものも見受けられます。

八劔神社大銀杏

 この地には日本武尊(ヤマトタケルノミコト)と砧姫の伝説が残っており、このイチョウも、そのお手植えという言い伝えもあります。また、この木にはイチョウ特有のちちこぶが見られることから「母乳の出が良くなりますように。」と祈願をする人たちで昭和30年代頃までは賑わったそうです。

ちちこぶ

 上の写真がその「ちちこぶ」です。昔の人は、この丸い房の様な形が女性の乳房に似ていることから、この「ちちこぶ」の皮を煎じて飲むとお乳の出が良くなると言う風習があったそうです。今でもこのような信仰はあるのでしょうか?
 最近まで、ちちこぶは他の樹木に見られる気根の一種だと考えられていました。しかし、他の樹木の気根のように空気中の水分を吸収したり、樹体が倒れないように支えたり、或いは、湿地帯で酸素不足の解消のために酸素を吸収したり、という働きはないそうです。今では、茎の下側の部分が変形したものだという見解で。その働きについてはよく分かっていません。いずれにしても、太古の恐竜時代から存在するイチョウの不思議な生態の一つです。

 下の写真は2番目の見学地、芦屋町の岡湊神社です。ここでは、宮司さんに日本三大ソテツの一つに数えられる大ソテツの解説を依頼していたのですが、話のほぼ9割以上が神社の成立ちと、伊万里から送られたという立派な石灯籠の話になっていました。大変熱心に話をしていただきありがとうございました。
 この写真の後に私からソテツに関しての話題を、少しだけにさせていただきました。(汗)

岡湊神社

 
 昼食後に尋ねたのは、宮若市の山懐にある清水寺(せいすいじ)のビャクシンです。写真の山門の右に写っているのがビャクシンの木です。樹木の大きさもさることながら、ビャクシンと山門、下に流れでる滝が一つの素晴らしい景観をなしています。なかなか渋い眺めです。

清水寺山門

 山門の下から振り返ると御覧の様な風景が楽しめます。
ここは福岡県では珍しい雲海の名所だとか、ただ訪れた時間が午後2時を過ぎていたので、素晴らしい雲海にお目にかかることは出来ませんでした。
 境内には大きなモミジの木もあったので、もう少し季節が進めばさらに鮮やかな風景も楽しめることでしょう?

清水寺眺望

 最後の見学地は糟屋郡宇美町にある宇美八幡宮の楠の巨木です。境内には沢山のクスノキがありますが、中でも「湯蓋の森」「衣掛の森」と呼ばれる2本は別格の存在感があり、大正時代にはすでに国の天然記念物に指定されています。
 この地は応神天皇が生まれた場所とされており、宇美八幡の境内で産湯を使われた際に、その産湯の上に天蓋のように枝を伸ばしていたことから「湯蓋の森」また、産湯に浸かる際に衣をその枝にかけたことから「衣掛の森」という名前がついたそうです。森とは1本で森のように枝が繁っていることから付けられた呼び名です。
 下の写真は「衣掛の森」です。

宇美八幡宮衣掛の森

 幹のかなりの部分が空洞となり、一部の樹皮が剥がれているにもかかわらず、なお衰えを知らない巨木を前に、皆さん感嘆の声をあげたおられました。このクスの巨木には圧倒的な力感を感じます。

 この後、九州道を通って無事熊本に帰ってきました。皆さん寒い中、私の拙い解説を熱心に聞いていただき大変有難うございました。来春はサクラの季節に、どこか九州の素晴らしい樹木と自然に出会えるように考えていきたいです。