サクラのテング巣病2011/03/11 14:10

 写真は熊本市西部、金峰山の麓にある谷尾崎梅林公園の外周を巡る園路付近を撮影したものです。
ここは熊本市の梅の名所で、園内には紅やピンク、白など色とりどりの梅が約300本ほど植えられており、2月下旬の満開の時期には多くの来園者があります。
 丁度この日も、十数名の写真愛好家の方々が、三脚を立てて花の蜜を吸いに来たメジロを熱心に撮影されていました。
 
 実はこの日、梅の花見をするためにここを訪れたのではなく、園内に20本余りのサクラの木が植えられており、その衰弱の様子を調査するために来たのです。
 この梅園を管理されている熊本市役所の公園課の担当者立会いのもと、園内を巡って梅ではなく、未だ蕾が固い桜の木を一生懸命に見て回りました。
 
谷尾崎梅林公園


 品種はソメイヨシノがほとんどで、所狭しという感じで隣の樹木と接近して植えられていました。
この為、枯枝や腐った枝も多く、中には枝の殆どが下の写真に見られるようなテング巣病と呼ばれる、菌類の影響で枝が委縮し、いわゆる天狗の巣の状態となる病気にかかっているものもありました。この病気はソメイヨシノに非常によく発病がみられ、これに罹ると病巣は他の枝へも容易に伝染し、花付きが極端に悪くなり、衰弱して、遂には枯死に至るという恐ろしい病気なのです。

 
梅林公園のサクラ

 発生環境としては、山の谷間や、日陰に当たるところなど、空中湿度が高いことが罹病率を高くすると考えられています。丁度、この公園は山の裾野に位置し、横には小川が流れています。しかも、樹木同士の隣間隔が非常に接近しているという、まさしく発病の条件をすべて満たす環境にあるのです。
 対策としては、罹病枝の切除、及び切断面の殺菌処置程度しかありません。とりあえず、今回はこの処置を行い、枝全体の病気が蔓延しているもので、肝心の梅の木に上から覆い被さるようになっているものは伐採の処置をとる事としました。

 市役所の担当の方は『昔、苗木を植え付ける時には間隔が広く開いていると寂しい感じがして、くっつけて多めに植えたのではないでしょうか?』と言われてました。
 ここと似たようなケースは他の場所でもたくさんあります。将来、その樹木がどのような大きさになるのかを考慮して、植栽計画を立てることが重要ではないかと痛感させられました。それから、サクラと言えば全国どこでもソメイヨシノばかりを植えることに疑問を感じています。これではさらなる病気の蔓延を助長しているようなものです。ソメイヨシノと同時期に同じような花を咲かせ、テング巣病に対して耐病性のある他の品種の植栽を進めるべきではないでしょうか?

 全国に桜の花の普及活動を行っている(財)日本花の会ではジンダイアケボノ(神代曙)、コマツオトメ(小松乙女)、ヨウシュン(陽春)など他品種への植替えを推奨されています。

残されたタブノキ2011/03/15 11:04

 連日ニュースでは東北関東大震災の模様が報道され、瓦礫と化した街並みや、原発の衝撃的な映像、家族の行方を探す人達の不安な様子が映し出され、思わず正視できないような場面もあります。一刻も早く終息を迎えることを望むばかりです。

 テレビの映像を見ていて気になることがありました。海岸線に防風林として植えられた、おそらく松の木と思われるおびただしい数の樹木がまるで稲穂でも倒れているかのように、根がむき出しの状態で横たわっている姿には唖然とするばかりです。
 この地域を襲った津波の威力と、惨状を目の当たりにされた方々の恐怖を思うと言葉もありません。

 さて、先日、丁度震災の前日でした。熊本市役所の方に、「倒れかけた樹木があって、伐採するかどうかの判断をしてほしい。」というよくありがちな依頼を受け、早速、現地に赴きました。
 市役所公園課の担当者、公園の愛護会の責任者の方、自治会長の立会いの下に樹木を調査しました。その樹木が下のタブノキです。幹回り4m程度、高さ12m程度の立派な樹木です。

公園のタブノキ

 
 愛護会の責任者の方は「この1~2年のうちに民家側への傾きが大きくなったので早く伐採して、新しい苗木に植え替えてほしい。」との意見でした。自治会長も「集会では切ってもらいたいという意見も出るが、結局いつも結論が出ずじまいです。」との話でした。
 お二方の話と、その場に漂う空気は私の口から「危険だから伐採しましょう。」との言葉が出るのを待っているようでもあったのですが…。
 確かに、根系は殆ど傷んでおり、下の写真のように一部浮き上がっている箇所もあります。(下写真)
タブノキの根っこ

 
 幹の中ほどにも、大枝を切断した下の部分から直径20㎝程もあるコフキサルノコシカケが発生して、幹内部の空洞化もかなり進行しているようなのです。(下写真)
タブノキのコフキサルノコシカケ

 しかし、樹冠(枝葉の部分)の勢いも健全だし、民家側に傾いているとはいっても、幹の上部は2か所で鉄骨製の頑丈な支柱に支えられていました。それに、タブノキでここまで立派なものは九州、熊本とは言えなかなかお目にかかれるものではありません。 

そこで、とりあえず枝の上部の民家側に倒れる危険性があるものだけを切断し、後は成長の様子を見届けるという提案をしました。最終的には、私の提案を受け入れていただきホッと一安心した次第です。

 帰りしなお二方に「こんな立派なタブノキは珍しいですよ。」と言って差し上げたら、とても喜んでいらっしゃったのが印象的でした。
 
 よそから来た人間が、その土地のご神木に興味を示したりする事は、地元に人にとって喜ばしいことなのかもしれません。

ウソによる被害拡大2011/03/17 15:43

 写真は熊本市の東隣にある益城町の木山城跡公園の広場を撮影したものです。益城の市街地に隣接した小高い丘に公園が作られており、一番上の広場の周りには幹回り1m程のソメイヨシノがたくさん植えられています。ここでは毎年、春のお祭りが開催され、丁度、花見のシーズンと重なることから、多くの町民の方々で賑わいを見せるそうです。ハクレンの花も咲き始めた季節、本来ならばあと2週間足らずでサクラのつぼみも綻び始めるころなのです。

木山城跡公園
公園の一番上にある広場 町一番の花の名所
益城町春まつり
公園下の県道沿いに設置された祭りの案内板



 ところが、今現在の花芽の様子は下の写真のとおりです。一枝に本の1~2箇所花芽が見られる程度で、ほとんど花芽がついてない状態です。
 町の皆さんは今からお祭りの日を楽しみにしてらっしゃると思うのですが…。当日、皆さんが落胆される様子を想像できるだけに何だか気が重くなります。
 
ウソによる被害

ウソによる被害2

 
 実は私、3年前の5月頃にこの益城町役場の方から、ここのサクラの相談を受けていました。春まつりの時に花が2分咲き程度で終わってしまって、町民から苦情が出たのでどうにかしてもらいたい。というものでした。最初は病気か土壌に問題があると考えていたのですが、花を咲かせなくするほどの問題は見当たりませんでした。しかし、12月初旬、公園を訪れてみると、それまで順調に成長していた花芽が少なくなっているような気がし、よく見ると上の写真と同じような状態が見られました。木の下に目を向けると、花芽の皮というかカスのようなものが沢山落ちていたのです。
 私は理由が思いつかず、熊本市内にある森林総合研究所に枝先を持ち込んで見ていただいたところウソという小鳥が食害した痕だという事が判りました。ウソはスズメ目アトリ科の小鳥で体長15㎝程のものです。下がウソの写真です。
サクラを食害中のウソ

 
 本来、秋に亜高山や北方から山地や低地の林に飛来して、木の芽や草木の種、昆虫などを餌としていますが、そこで餌が少ないと公園や街路樹の花芽を食べるそうです。 
 これまでウソの被害は東北や北海道では報告されていますが、まさか南国九州に現れるとは。
 そういえば大宰府天満宮のお土産として木彫りのウソが売られているので、きっと九州にも以前からいたのでしょう。ただ、九州ではあまり雪が降らないため、野山の冬の食糧が豊富で、今まで花の被害はあまり報告されていませんでした。もしかして今年の寒さの影響なのでしょうか?
 
 3年前には12月中と1月初旬に忌避剤として殺菌剤の一種のべフラン水和剤を散布しました。結果的に5分咲き程度の被害に抑えることができ、それ以来、私の方に相談が無かったので、きっと花は咲いているのだろうと安心していたのですが…。

 今年の被害はかなり深刻なような気がします。もちろん枝の上の方まで近寄ってみたわけでは無いので、何とも言えないところもありますが、きっと、花は殆ど期待できないと思います。

 こんな事なら忌避剤散布を中断せずに、定期的に行っていればとも考えます。しかし、鳥が来なくする為に、本来リンゴの殺菌剤として製造されている薬剤を定期的に散布する事への抵抗もあります。
枝を見ていただいた森林総合研究所の研究者の方は「きれいな鳥なのでバードウォッチング等を企画されてもいいのかもしれません。」とおっしゃってました。いずれにしての完全に来なくすることは不可能というか、人間の勝手な考えなのかもしれません?
 

早くも2分咲き?2011/03/24 12:33

 熊本地方では静岡市についで全国で2番目の速さで一昨日22日にソメイヨシノの開花宣言が出されました。しかし、ここ数日、朝の最低気温が2℃前後の日が続いており、花冷えを通り越して真冬の寒さがぶり返したような天気です。

 下の写真は地元の熊本大学構内のソメイヨシノです。この木は周囲の中で一番開花が進んでおり、早くも2分咲きというところでしょうか?
工学部資料館の桜


 大学内には多くのソメイヨシノが植えられているのですが、周囲に高い建物が増えたせいか、日当たりを好む樹木にとって生育環境は厳しいものになっているように思います。
 
 この桜も、下の写真で判るように幹の中心に腐朽箇所が確認できますし、幹の下の部分はイタビカズラに覆われています。若干衰弱傾向にあるようです。樹木は通常、衰弱が始まると早く花を咲かせたり、紅葉が早まったりする傾向が見られます。きっと、早く結実させて子孫を残そうとするのでしょうし、早めに休眠に入って余分なエネルギーを使わないようにする自然の知恵なのでしょう?

桜の腐朽部


 近年、この大学でも校舎の建て替えが進み、随分立派な建物が増えてきましたが、緑の量が少なくなったと実感しています。
高層の校舎を建てて土地の有効利用を進めるのは良いのでしょうが、学生が緑の環境の中で過ごす時間の大切さも考えてもらいたいものです。