天然記念物のフジの木2012/08/01 15:06

 先日、といってももうかなり前ですが、熊本県山鹿市の依頼を受けて、市指定の天然記念物の調査に行ってきました。その時、訪れた1本が下の写真のフジの木です。

 フジといえば通常神社の境内なんかにあって、立派な藤棚の上に何不自由なくのびのびとツルを伸ばしている姿を連想します。しかし、このフジ「枝川内のフジ」は前に生えているヘラノキに絡みつく形で生育しています。自然の環境に近い状態にあるのです。

 今年の花の季節には地元、熊本の新聞に取り上げられ、それ以来見物客が多く訪れたとの事。根元に見える青いトタン小屋の中にはこんこんと水が湧き出しており、山間の風景と相まって、何とも癒される空間を作っています。

枝川内のフジ

 ヘラノキだけではなく、後ろにある樹木にも大きく蔓を伸ばし、一見、健全そうに見えるフジノキですが、実はかなりの老木でず。しかも、絡みついているヘラノキの内部が空洞となっているため、倒木の可能性も否定できません。そこで今回の調査となったわけです。

ヘラノキとフジノキ

 樹木内部の空洞の大きさを測定する特殊な機械でヘラノキを測ったところ、空洞率が46%という値が計測されました。街路樹等では空洞率50%を超えると倒木の危険があるとされているので、かなり心配な状況ではあります。しかも、下の写真でも分かるように、フジに押されてかなり前のめりとなり、大枝の一部は完全に失われています。
フジとヘラノキ2

 対策としては、幹折れや倒木を防止する意味合いで、ヘラノキ自体に金属製の支柱を設置することを提案しました。
 本来ならばこの場の雰囲気を壊したくなかったので、自然の成り行きに任せるのも良いのではと考えましたが、根元に水を汲みに来られる方も多く、安全性を考えると止むを得ないのかもしれません…。せめて、支柱を出来るだけ目立たないように加工する事、塗装も焦げ茶等周囲の雰囲気に溶け込むような色を使う事を考えています。

 このフジノキ、大きさ的には他の藤棚で生育しているようなフジにはおよびませんが、他の樹木に絡みつく姿を見てると、フジ本来の野生の魅力を感じさせる樹木です。

サクラのキノコ2012/08/06 13:47

 先日、当社がお庭の管理を行っている、熊本市内某診療所の庭の様子を見に行った際に、サクラ(ソメイヨシノ)の木に見事?なキノコを発見しました。

 幹の2箇所から多数の薄茶色をした幅3~4㎝程度のキノコ(子実体)が大量発生していました。
カワソタケ1

  遠目には、最近スーパーなどで良く売られている、原木栽培のなめこに良く似ているようにも思えるのですが、よく見てみると、なめこ特有のぬめりなど全くありません。どちらかといえば、粉っぽくて短い毛が生えている様子です。さらに、なめこにあるような柄の部分が無く、木の幹から直接、半円状の傘を伸ばしています。
 
カワウソタケ2

 このキノコの正体はおそらく「カワウソタケ」と呼ばれるものです。サクラによく見られる、カワラタケやサルノコシカケなどの仲間になります。樹木の幹内部を腐らせるキノコです。

 実はこの桜、2月のこのブログで紹介した樹木です。トラックが幹に当って、樹皮が大きく損傷を受けた樹木でした。その傷口から菌が侵入したのか、以前から幹の内部で腐朽が進行しており、今年になってこのようなキノコの発生が見られたのかは定かではありません。以前から衰弱していたことを考え合わせると後者の様な気もします。

 いずれにせよ、幹や枝に出来た大きな傷口は、キノコの様な「木材腐朽j菌」 の格好の進入路となるのです。特に桜の様な腐り易い樹木にとっては致命傷ともなりかねないのです。「桜切るばか、梅切らぬばか。」とは良く言ったものです。


サクラのキノコPartⅡ2012/08/21 14:18

 我々が普段食用としているシイタケやブナシメジ、ごく稀にマツタケ等、キノコの旬といえばこれからの秋の季節を思い浮かべます。しかし、数多くあるキノコの仲間には夏の間に成長期を迎えるものも多くあります。その代表格が「ベッコウタケ」です。このブログの中でも何度か紹介したキノコで、主に樹木の根を腐らせる性質をもち、時には樹木を枯死させるという病原性の強いものです。
 
 晩秋から春に掛けての比較的気温が低い時期には焦げ茶色をしており、乾燥した質感もあって、樹皮と見分けがつきにくいです。しかし、初夏の頃、気温の上昇とともに茶色がかったオレンジ色を呈し、独特の存在感とともに、子実体(キノコ)が急に成長します。

 先月、7月に熊本市内の某公園内のソメイヨシノの根元にこの「ベッコウタケ」を発見しました。根を腐らせるという事は、地上部(幹や枝葉)が健全でも、風に煽られて倒れてしまう危険性もあります。実際、街路樹の倒木事故の多くの原因となっています。そこで、行政の方に相談したところ、伐採の処置をとることとなりました。

ソメイヨシノのベッコウタケ
 
 上の写真は、おがくずが落ちていて少しわかりにくいのですが、ソメイヨシノの根元に「ベッコウタケ」の子実体が複数確認できます。

ソメイヨシノ伐採の様子

 幹周が160㎝を超える様な大木だったので、大型のチェーンソーを用いての伐採作業となりました。
ソメイヨシノの切断面

 切断面の中央部分が、色濃く変色しているのが分かります。変色した部分の組織は脆くなっており、かなり腐朽もすすんでいるようです。根系だけではなく、幹の下部の木材も腐らせています。
 放置していれば、ソメイヨシノの衰弱が進行して枯死に至るか、途中で倒木の危険もあったと思います。

 近年、この「ベッコウタケ」を街中で頻繁に見かけるようになってきました。主な原因としては樹木が生育している土壌環境が、コンクリート構造物や舗装などの影響で悪化していることが挙げられるのですが、近年の温暖化とも何か関連性がある様にも思えてなりません…。