クスノキの診断2014/07/02 10:02

 先月の中頃、熊本県某市よりの発注で、ある公園内にある衰弱したクスノキの診断を行いました。下の写真が問題のクスノキです。小学校横の今では広場となっている広場に生えています。木の周りには立派なコンクリート製ベンチが設置されたり、草が生えないように山砂の舗装が施されています。しかし、広場のシンボルである肝心のクスノキはご覧のような有様です。下の写真でも分かるように梢の先端に枯れ枝が目立ちます。

クスノキ全景

 通常、このような枝先からの枯れが見られる場合、その原因として根の生育不良が考えられます。そこで、実際に根の周りの土を掘ってみたり、土の硬さや透水性、pHなどの化学性の調査を行うこととしました。

 下の写真は実際に深さ1.2m程の穴を掘った土の断面です。これだけ掘っても細根が地表近くに出てくるのみです。穴の底付近にやっと直径15㎝程度の根を確認できました。かなりの深植え状態になっています。この様子から、このクスノキの周りで最近になって盛り土がされたということが推測されます。
 実は樹木の根も呼吸をしているので、こんなに地中深く埋められてしまえば酸素欠乏状態となり、樹木自体が衰弱するのも当然です。


土壌断面
 
 その他、土壌の硬さや水はけの具合を調べました。硬さに関しては非常に硬く、根が伸びるのに障害が出る程の値が測定されました。
 下の写真は土壌の水はけ(透水性)を計測している様子です。土が砂地のせいか透水性には何ら問題はなく、水はけは良好といったところです。

透水性の測定

 下の写真は現地で採取した土壌を会社に持ち帰り、pHを測定している様子です。少し高めで弱アルカリ性となったので、ピートモス等の有機質の改良材を入れて安定させる必要があります。

pH測定

 Facebookにも書きましたが、一連の調査結果を1冊の報告書にまとめ、土壌改良方法の提案を市の担当部局に行ってきました。樹勢回復のためには土を柔らかくしたり、地中深くに埋もれ深植え状態となってしまった根に十分な酸素を供給してあげたり、土の重みで根に掛かった過大な加重を少しでも減らしてあげる処置が必要だと説明をしました。熱心に話を聞かれており、納得はしていただけたようです。

 今回のように元々あった樹木が周りの環境(土壌環境)の変化によって衰弱するケースはここのクスノキに限った話ではありません。公園を利用しやすくという目的で園路が新設され、その際にサクラの根が切断され枯れてしまうケース。このクスノキと同じようにベンチの設置やゲートボール場の新設に伴い、盛り土がなされたケース等々、まさに枚挙にいとまがない状態です。
 一見、樹木の周辺が奇麗に整備され得たように思えるのですが、実は樹木の成長にとって一番重要な根っこが傷つけられていることが意外と多いのです。
 これから樹木の周辺で工事を行う際には、私たち樹木医に事前の相談をしていただければと痛感しました。

 

街路樹のキノコ2014/07/14 09:11

 先週、九州に上陸したはずの台風も熊本では雨風共に大したことはなく、拍子抜けするほどの静けさのまま、無事に通り過ぎてくれました。しかし、台風から遠く離れた長野県で大きな被害となったのは、なんとも皮肉な気がします。
 そんな台風明けのある日、熊本市内とある交差点で信号待ちをしている時、何気なく街路樹に目を向けた時に妙なものが目に入ってきました。明らかに樹木の自然な色彩とは違うオレンジ色にピンと来るものがあったので、近寄ってみて見るとご覧のような事になっていました。

ベッコウタケ1

 上の写真の街路樹(ケヤキ)の幹の下の方にオレンジ色の塊状のものがあるのが、お分かりになると思います。地際から40〜50㎝程の高さの幹に、縦50㎝×横25㎝程のベッコウタケ(キノコ)が発生しています。

ベッコウタケ

 ベッコウタケはこのブログでも何度か紹介した事があるので、ご存知の方もいらっしゃると思うのですが、樹木の形成層と言われている生きた組織や根を腐らせる恐ろしいキノコです。街路樹が倒れて下を通りかかった人がけがをする。といったニュースをよく耳にしますが、実はこのベッコウタケがその主な原因と考えられています。

 キノコの大きさから考えても内部の空洞化や根の腐朽等、この樹木(ケヤキ)は目に見えたいところで大きなダメージを受けていると思われ、大変危険な状態です。

 他の樹木も気になったので、周辺を少し見てみました。すると、すぐ横の木はご覧のように車道側へかなり傾いた状態になっています。


樹木の傾斜

 
 また別の木には別の種類のキノコが発生していました。下の写真の空洞の上にちょこんと見える白っぽい部分はおそらくコフキサルノコシカケと呼ばれるキノコです。これはベッコウタケのように樹木の根元を直接に腐らせる力はないのですが、幹の木部を空洞化させます。

猿の腰掛け

 下の写真ではキノコの発生は見られなかったのですが、車道側の縁石を真っ直ぐに敷設するために、樹木の根の部分が直線的に切断されているのがわかります。
 私の推測ですが、度重なる歩道の掘削や道路工事の際に樹木の根の切断が繰り返され、その傷口からベッコウタケ等の腐朽菌(キノコ)が侵入して今の様な衰弱を引き起こしていると考えられます。

根元の切断

 歩道をまっすぐ平坦にして歩行者がストレスなく歩けるようにしたい。或いは樹木の根の成長によって車道側の縁石がいびつに膨らんでいるのを真っ直ぐに矯正したい。という気持ちは分からないでもないのですが、このような行為によって樹木の根を傷つけることが、将来の倒木リスクを増大させていることを認識していただきたいものです。

 この街路では他にもベッコウタケが発生しているものや、明らかにシロアリが食害したと思われる痕がいくつも見られました。

 今回の台風は熊本では殆ど風は吹かず、大した被害は出ませんでした。しかし、これからの大雨や台風によって、御覧頂いたような傷ついた街路樹が根元から倒木する被害も十分に起こりえます。このような災害を防ぐには事前の街路樹の診断が必要で、危険なものについては伐採もやむを得ないと考えます。

 何れにせよ街路樹や樹木の倒木によって起こる事故を未然に防ぐためには、街路樹診断を行うことが、まず最初のステップだと言えます。