秋の現地講座2014/08/11 13:30

 台風11号は四国や近畿地方に大きな爪痕を残し、今朝には北海道の西海上で温帯低気圧になったそうです。テレビでは水に浸かった後の校舎を掃除する中学生の姿が映っていました。元の生活に戻るのにどれくらいかかるのか分かりませんが、一刻も早い復旧を祈るのみです。

 さて、今回は私が講師を担当しておりますNHKカルチャー秋の現地講座の見学場所の一部を皆様にちょこっとだけご紹介します。以前にもFacebookでは紹介したかと思いますが、今度の講座では福岡市近郊の宇美八幡を初め、遠賀川下流域の巨樹・古木を尋ねます。

 最初の見学地は福岡市近郊の宇美八幡です。ここには数多くの樟の巨木があり、中でも「衣掛の森」や「湯蓋の森」と呼ばれるものは何れも幹周り20mほどもある巨木で国の天然記念物にも指定されています。この2本はFacebookでもちらりと紹介しましたし、講座当日のお楽しみという事で、今日紹介するのは神殿左側にある「イヌエンジュ」です。
 
子安の木「イヌエンジュ」

 小さなクリーム色の花を20㎝程の房状に付けるのが特徴です。なんでもこの宇美八幡宮は安産の神様として知られており、この木を「子安の木」として神木として祀っているのだそうです。
 クスノキに比べて小さく地味な存在ですが、安産の神様のご神木として講座当日も皆さんに紹介しようと考えています。 

 次は宇美八幡から車で40〜50分程、宮若市の清水寺の「ビャクシン」です。下の写真の真ん中の丸っこい梢の木がそうです。宮若市の天然記念物だとか、よく見ると幹が根元近くで二股に別れており、幹周りはそれぞれ2mと1m程度でしょうか?
巨木という言葉からは程遠いかもしれませんが、そもそも、ビャクシンは成長が遅く、巨木という雰囲気のものをほとんど見かけません。ですので、これほどの大きさでも大変珍しいといえます。

清水寺のビャクシン

 このビャクシンもさることながら、山門へつながる階段付近の風景もこのお寺の魅力です。高さ2m程の小さな滝の周りにはモミジや桜が植えられており、丁度、この時はカノコユリも咲いており、水のある風景に、より一層の涼やかさを添えていました。

青龍山 清水寺

 秋の講座では、ここで紹介した以外にも遠賀川のほとりの「イチョウの巨木」やご神木となっている「カシワの木」等を見学します。当日は季節も進み、木々も色づき始めている季節です。御覧頂いた樹木もまた違った魅力を見せてくれるはずです。少しでも多くの皆様のご参加を期待しております。
 

柳川・大川の風景2014/08/18 10:19

 お盆休みに帰省中の娘を連れて、柳川市方面にドライブに出かけてきました。熊本市内から2時間程度で柳川の中心地である沖端地区に到着です。この日はあいにくの小雨模様だったにもかかわらず、名物のドンコ船で川下りを楽しんでいる人たちの姿も見られました。お堀端の枝垂柳や榎が川面に映って如何にも水郷柳川という風景です。水辺の風景は人の気持を落ち着かせてくれる気がします。

柳川川下り

 最初に出かけたのは柳川が生んだ偉大な詩人“北原白秋”の生家です。現在は北原白秋記念館という名前の資料館として一般公開されています。元々、海産物問屋や造り酒屋を営んでいたというだけあって、白壁の2階建てでかなり立派な建物です。
 生家を入ってすぐの左側の居間の奥には坪庭が有りました。幼いころの白秋もこの庭の見える部屋で遊んでいたのでしょうか?

 庭をよく見てみると鹿威しが設けられています。そう言えば、京都の詩仙堂というお寺にも有名なものがありました。竹が石を打つ“カーン”という響きは、単に風流というものだけではなく、詩を作るなどという創造的な思考には重要な要素なのかもしれません。


白秋生家

 資料館では白秋の生い立ちからその生涯を描いたビデオが上映されていました。一時期、詩人としてかなり恵まれない貧乏な日々を過ごしたと紹介されていました。しかし、その作品に貧しさや苦しさみたいなものが全く感じられないのは、裕福な家に生まれたという事もさることながら、柳川の豊かな水やそれが育んだ生命の逞しさが影響しているのかもしれないと思いました。

 次に、隣町の大川へ向かいました。ここは言わずと知れた家具の街です。その街の中心に“風浪宮”(ふうろうぐう)という立派な神社があります。勝運の道を開いたとされる少童命(わだつみのみこと)を祀っており、1800年の歴史がある由緒正しい神社だとか。

風浪宮

 神門の前には池があり、そのほとりに植えられている松の緑が朱塗りの建物に映えてとても鮮やかです。

風浪宮のご神木

 門を潜って本殿右側にはご神木のクスノキがあります。説明文によれば、少童命の化身とされる白鷺が止まったと伝えられており、樹齢2000年だとか?幹周りは8mで福岡県の天然記念物にも指定されています。樹高の割にはどっしりとした印象を受ける樹木です。Facebookで紹介した宇美八幡のクスノキを少し小さめにした雰囲気です。
 大川の街と言えば家具のお店や木材の加工場が多く立ち並び、柳川の柳のような緑の印象はあまりなかったのですが、この神社周辺は松やクスの緑に溢れていて、瑞々しさを感じられる場所です。この地も柳川とともに筑後川流域の肥沃な土壌が、自然を育んできた場所に違いないのです。

幹が空洞になった樹木2014/08/30 16:10

 前回のブログてお伝えした福岡県大川市の風浪宮、その参道脇には大川公園という公園があります。ここには池を囲むようにマツやサクラ、ヤナギなどの樹木が植えられており、アヒルも放し飼いにされてたりして、のどかな雰囲気の公園です。

 そこで、見つけたのは下の写真のような樹木です。よく見ると、幹の中段と下の根元付近にポッカリと穴が空いており、向こう側が透けて見える状態です。このサクラの木、正しく皮一枚で命をつないでいる状態になっています。


大川公園の桜


 さらに次の写真のクスノキも!
こちらは向こう側こそ見えませんが、人が何人も入れるほどの大きな空洞が開いています。
これ程大きな空洞があるものの、木の勢いに衰えた様子はあまり見られません。なんという生命力の強さなのでしょうか?

宇美八幡の楠

 空洞で有名なのは何と言ってもこの木ではないでしょうか?
皆さん御覧になった方もいらっしゃるのでは思うのですが、佐賀県武雄市にある武雄の大クスです。樹木自体も幹周が20mを超える全国でも屈指の巨木で、根元の空洞の広さは畳12畳分、中には天神様が祀られています。昔は樹木手前に見られる石の階段を昇って中の空洞に入ることが出来たそうですが、現在では樹木保護の目的で柵が設置されています。
 
 俳優の浅野忠信主演の映画でも登場し、浅野が実際にこの空洞の中に入り、上を見上げながら昔を回顧するシーンが撮影されたとか?中がどうなっているのか私も入ってみたい気がします。武雄市から診断の依頼が来れば簡単なのですが…。



武雄の大クス
  

 御覧頂いた3本の樹木は幹に大きな空洞を抱えながらも、比較的元気に生きています。
もちろん、幹の空洞は内部の組織が腐って欠落したために起こる現象ですので、樹木の老化や衰弱を示していることには間違いはありません。ただ、樹木は樹皮の内側にある形成層と呼ばれるごく薄い組織のみが生きており、私達が材木として利用している材部は死んだ組織の集まりなのです。内部が空洞になったからといって、その事が直接、樹木の生死に関わるような事はありません。

 これは個人的な意見ですが、クスノキなどの巨木の場合、空洞があった方がかえって魅力的に感じます。武雄の大クスの圧倒的な存在感はその空洞があってのことだと思うのです。

 幹に空洞が出来たからといって、そこにウレタンやモルタル等を充填すれば、内部の湿度が高まり、健全な部分まで腐朽が及ぶ恐れがあります。樹木のためにはかえって逆効果です。
空洞はそのままにして、樹木の根が伸びていく周辺の土壌環境を整えることが先決なのです。